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Secret Garden 虐げられた猫族 第一話「踊り子の少年」
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虐げられた猫族 第一話「踊り子の少年」

蒼天歴176年。当時、未開拓であった北の地に人類が進出。その際に北の森林地帯で遭遇した種族、後に「猫族」と称されることになる種族と出会い交流を深める。それから300年後の青天歴476年。猫族と人間族の間に大きな戦争が勃発する。その戦争は後に「獣狩り」と呼ばれ、戦争は人間側が大勝を収めた。その際、敗北した猫族は永遠に人間の奴隷になるという条約を半ば強制的に結ばせられたという…


時に蒼天歴480年。~オーランス城下町の宴会場「猫の家」~


「坊ちゃん。見てくださいよこの子!とってもキュートでしょ?」

「おいおい、また新しい猫を買って来たのか?…前の猫はどうした?」

俺の名前はレイト。宴会場「猫の家」のオーナーであるロードナルの一人息子だ。
それで、俺の目の前で新しく買ってきた猫を舐めますように眺めているのがこの宴会場の責任者ゴードン。ゴードンは悪い奴じゃないんだけど…

「あぁ、弱っていたのでラドクスに売りましたよ」

「ラドクスに!?炭鉱に売ったのか?それじゃ…」

あっさり売りましたと答えるゴードンだが、レイトはそれを聞いて驚く。そもそもラドクスという人物は「猫使いが荒い」として有名な男。そんな男の元に売られたら最後、ボロ雑巾になるまで働かされた挙句にゴミの様に捨てられるのがオチだろう。レイトはそんな所に猫を売りに行った非常なゴードンを軽蔑の眼差しで見つめる。

「もぉ~、坊ちゃんは何かと猫族に甘すぎですよ!お父上に叱られますぞ」

笑いながらそう言ってレイトを宥める様に抱きつくゴードン。しかし、レイトはそのことに対して納得行かないと言うような表情で会話を続けた。

「猫族って言っても外見は俺達と大して変わらないじゃないか。言葉だって交わせるし」

「ちょっ!軽々しく口にする言葉じゃありませんよ!王族批判と言われ…」

俺としては猫族を奴隷扱いするのは癪に障る。でも、一度その事を口に出すと「王族批判」やら「混血」などと罵られてこの国ではたちまち生きていけなくなっちまう。

「あぁー十分承知だよ!」

レイトは聞き飽きたと言わんばかりに大声を上げてゴードンの話を立ち切ると、そのままその場から立ち去った。



それからしばらくして猫の家が開店。除所に客足も多くなり、いつの間にか店は満席状態。その様子に従業員でないレイトは本館(家)に戻ろうとしたが、その日は新しい猫もやって来たことから興味本位で店に残ることに。

「そういえばさっきよく見なかったけど、新しく来た子ってどんな子かな…屋根裏なら…」

そう思いレイトは荷物置き場でもある店の吹き抜けの屋根裏に向い、店のステージが一望できる場所を陣取って猫ショーが始まるのを今か今かと待ち続けた。



「さぁ、いよいよ今日のショーの時間です。今夜が初ステージとなる期待の新人猫を早速呼んでみましょう…」

客で埋め尽くされた猫の家のステージに立ち、ショーの開始を客達に伝えるゴードン。ゴードンの呼び掛けに思い思いの時間を過ごしていた客達が一斉に黙り込みステージに視線を向ける。

「………んっ!しまった!ついつい寝ちゃったよ」

屋根裏で待機していたレイトはいつの間にか居眠りしてしまっていたが、ショーの前説を行うゴードンの甲高い声ではっと目が覚め上半身を起こす。

「あれ?もうショーは終わったのか?…でも、ゴードンが喋っているってことは」

レイトは慌ただししくステージが見える位置まで移動すると、眼を凝らしてステージを眺める。それと同時にステージの奥からはトボトボと何者かがゴードンに手招きされながら近づいてくる。

「あの子が新人の猫か…」

ステージに現れたのは茶色いクセ毛に猫族特有の耳や尻尾、半獣化した両手足に露出度の高い踊り子の衣装を身にまとった年端も行かぬかわいらしい男の子だった。しかし、その幼い容姿とは裏腹に何処か場慣れしているような感じの雰囲気が漂うその少年。

「……なのです。ですから……お楽しみください」

「おっ、いよいよ始まるのか?」

ゴードンが一通り話を終えてステージから降りると、予め待機していた演奏者達が楽器を奏で始める。

~♪ ~♪ ~♪

店中に響き渡る美しい音色。やがて、ステージに一人残された少年は鳴り響く音楽に合わせるようにして踊り始めた。

「…凄い。俺とそんなに年も違わないハズなのに」

俺はステージの上で堂々と可憐に舞い踊る少年姿に驚くと共に一気にその踊りの虜になり、終始食い入るようにして屋根裏から少年の踊りを眺める。俺は長い間この店で大勢の猫族達の芸を見てきたが、ここまであっさりと心奪われたのは恐らく初めてなんじゃないかと思う。…それ程あの少年の踊りは凄かったんだ。

レイトすっかり少年の踊りに魅せられ、とっくに少年の踊りが終わっているのにも関わらず、トロ~ンとした虚ろな表情で少年の姿を見つめ続けた。

「ブラボ~エクセレント!」

観客達が少年の踊りを称え拍手する中、上機嫌のゴードンがステージに再び上がってきて大声で笑いながら少年の頭をグリグリと撫で回し客達に一礼させると、ゴードンは少年を舞台裏に下がらせる。

「…あぁ、行っちゃった……そうだ!後であの子の所に行ってみよう」

店の中で少年が舞台裏に下がるのを誰よりも惜しむレイト。その後、少年に直接会ってゆっくり話すためレイトは閉店まで屋根裏に潜むことに…



…閉店後


「店は終わったけど、あの子と話しているとこ見られたら色々面倒かも…」

ゴードンなどに見つかると色々うるさいと思ったレイトは、結局ゴードンを含む従業員全員が店から出た後に先程の猫族の少年に会いに行くことにした。



「あれ?坊ちゃんは本館にお戻りになったよな…まぁ、表の鍵を閉めても問題はないと思うけど」

ゴードンはその日の売り上げの金貨を袋に詰めて金庫にしまうと、レイトのことを呟きながら店の照明のランタンを消し歩き、全ての照明の明かりを落とすと店の表口からそそくさと出て行く。

「…よし、これで邪魔者は居なくなったぞ」

レイトは待っていましたと言わんばかりに潜んでいた屋根裏から飛び出し、少年が居ると思われるステージ裏の飼育小屋を目指して走り、難無く飼育小屋に到着したレイト。

そこは飼育小屋と呼ばれるだけあって所々薄汚く、とても寝泊まりできるような場所では無かった。だが、レイトは小屋の所々にある小窓から差し込む月明かりを頼りにどんどん飼育小屋の奥に進む。

やがて、劣悪な環境下で小さな鉄檻の中に閉じ込められている先程の猫族の少年を見つけ出したレイトはその猫が入れられている檻に歩み寄って檻の前でしゃがみ込むと、無言でジロジロと檻の中に閉じ込められている裸の猫族の少年を見つめる。一方、その少年は迷惑そうな表情を浮かべながらレイトを横目に睨みつけながら強気な口調でレイトに話しかけた。

「何だよ、人間。ジロジロ見やがって…そんなに猫族のことが珍しいのか?」

「いやぁ…さっきの踊り凄かったなぁと思って。…ところで服は?」

ついにお目当ての少年と接触できたレイトだが、なぜか猫族の少年は一糸纏わぬ全裸姿だった。レイトはそのことを疑問に思い少年に尋ねるが…

「お前等が取り上げたんだろう…それに僕は好きで踊ってるんじゃない」

少年は少し悲しげな表情を浮かべてそう言うと、桃色のお尻をプリンと揺らしながらレイトに背を向ける。

「ゴードンの奴だな…でも、踊りは好きなんだろ?どう見ても嫌いって風には感じられなかったぞ」

「…で、何の用だよ。僕を鞭で叩きに来たのか?」

「そんなことしないよ!只俺は…君の踊りに感動しただけだ。それで仲良くなれたらなって思ってさ」

俺の話なんてまったく聞こうともしない猫族の少年。会話もかみ合わず、可愛げのない態度を取る少年に何となくムキになった俺は思っていることを勢いで全部言ってしまった。…こんなストレートに思いを伝えずとも勿論無理やり従わせることだって出来る。でも、それじゃ意味が無い。こんな風に奴隷として世間では扱われている猫族に接するのは親父やゴードンの様に猫族を「物」として扱うことが出来ないからなのか。

「…仲良く?だったらここから出せよ!一方的に奴隷扱いしやがって…」

自分なりに対等の立場で少年と在りたいというレイトの思いとは裏腹に、レイトの方に振り返った少年の表情は深い憎悪に包まれていた。そして、仲良くなりたいなら檻から出せと声を荒げてレイトを一喝する少年。

「…檻からは出せないよ。親父に怒られる」

「だったらあっち行け!僕は人間が大嫌いなんだから」

「……」

その言葉に俺は何も言い返せなかった。確かによくよく考えてみれば自身を奴隷扱いする人間なんかと親しくなるなどありえない。もし、自分が少年と同じような立場だったら少年と同じように拒絶すると思うし。幾ら対等の立場で…って思っても一方的じゃ支配者と変わりないよな。

「ごめん…」

「…」

レイトは「ごめん」と謝罪の言葉を少年に告げると、それ以上何も言わずに飼育小屋を後にした。




次の日

その日の宴会が終わり、再び先日の様にゴードンに衣装を脱がされた後、全裸で飼育小屋の檻に入れられる少年。

「今日の餌だ、残さず食えよ」

ゴードンは少年を檻の中に入れて鍵を閉めた後、餌だと言って一匹の生魚を鉄格子の隙間から少年目掛けて放り投げた。

「うぅ…」

本来、猫族は遺伝の関係もあるのだが人間よりも免疫力が強いとされている。しかし、だからといって何でも生で食べる訳では無い。寧ろ猫族も奴隷になるまでは人間のように調理して食べる方が好まれていた。

「そういえば坊ちゃんはどこに…」

何やらブツブツ小言を言いながら飼育小屋から出て行くゴードン。少年はゴードンがその場から消えるや否や投げ込まれた生魚を涙目でさっと拾い上げ、隠すようにしてそれを口に運びムシャムシャと豪快に食べ始める。

「そんなに腹減ってたのか?」

「!」

少年が生魚をペロリとたいらげた直後、物影から姿を現すレイト。突然のことで少年はビクンと身体を震わせて狭い檻の奥に限界まで後ずさりするが、声の主がレイトだと分かるとレイトを物凄い形相で睨みつけてこう言う。

「…お前、また来たのか…覗きなんて悪趣味な奴だ。僕が…」

相変わらず俺に敵意剥き出しの猫族の少年。ホントはゴードンが居なくなったらスグに声を掛けようと思っていたんだけど、生魚に無心でかぶり付く少年の姿につい言葉を失ってその場に立ちすくんでしまった俺…お陰で覗き扱いだ。俺は少年にコレをあげに来ただけなのに。

「これ食べる?ゴードンが買ってきてくれた珍しいお菓子なんだけど…美味しいよ。」

レイトは少年の入れられた檻の前に昨日のようにしゃがみ込むと、少年が喋り終わる前に手に持っていた小さな長方形の木箱から板チョコの様なお菓子を取り出し、それを少年に差し出して食べるかとどうか尋ねる。

「!……餌で釣る気か?」

差し出されたお菓子を凝視しながら、そうレイトに切り返す少年。

「餌?これはお菓子だよ。それに、俺はそんなつもりで持って来たんじゃない」

素直にお菓子を受け取ろうとしない少年に俺は真顔でそれは誤解だと言うと、少年はゆっくり右腕を伸ばして俺が差し出すお菓子をフサフサの茶色い毛並みの獣手で受け取った。

「………」

レイトからお菓子を受け取った後、それをジロジロと物珍しそうに眺めていた少年。やがて、少年は目をゆっくりと瞑ると手に持っていたお菓子をいっきに口の中に放り込む。



「……う、美味い…」

「本当?」

俺は少年の「美味い」と言う言葉に何かホットした。口に合わずゲーゲー吐かれたらどうしようかと思っていたけど、味覚は人間と大差無いようだ。

「世の中にこんな美味い物があるなんて…その、あの……分けてくれてありがとう」

余程レイトから貰ったお菓子が美味かったのか、少年は頬を若干赤く染めながら照れ隠しをするようにレイトに背をむけて礼を言う。一方、少年の思わぬ態度の豹変にレイトは笑みをこぼす。

「礼なんていいよ。それに、これからは一緒に食べよう」

「お前…人間のクセにやさしいな。こんな風に接してもらったのは始めてだ…人間に。
…名前さぁ、なんて言うの?僕はミケ」

お菓子をくれたことはともかくとして、連日自分の元に訪れ対等の立場で接してくれたレイトの姿勢に少年は心打たれたのか、ゆっくりとレイトの方に振りかえって名前を尋ねるミケ。

「俺はレイト。やっと名前聞けた…親父達はミケのこと名前で呼ばないからさぁ」

「僕は奴隷だからね…どこでも「物」扱いだよ。でも、レイトは少し違う」

「少しだけかよ」

ミケは俺に完全に心を開いてくれたワケじゃなさそうだけど、ミケとの距離が少し縮まったのは何となく実感できた。だって、ついさっきまで不機嫌だったミケの表情や目付きが、見違えるように変化してたから…

「レイト、これからも僕に会いに来てくれる?…お菓子持って」

「?」

唐突にレイトに向って顔を俯かせてそう告げるミケ。本当はお菓子なんてどうでもいいことだったのだが、流石に「会いに来て」とだけ伝えるのが恥ずかしかったのか、ミケはお菓子目当てだと思わせるような発言を付け加える。

「なにぃ?お菓子目当てですか?」

「…そうだよ」

ミケの本心を知ってか知らずか、レイトはそう言いながら顔をニヤつかせてミケの顔を覗き込む。その時のミケの顔面は見事に真っ赤に染まりきっていた。

「…毎日来るよ。同じ屋根の下で暮らしているんだしさぁ」

「うん」




これが俺とミケの初めての交流だった。
この日以降、俺とミケはお互い何を話したのか忘れるほど会話を積み重ね交わしてどんどんその仲を深めていき、ふと気が付いた時には既にミケは俺にとって必要不可欠な存在になっていた。

そして、俺はある決断をする…

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