王子調教 ~序章~
「王子様!お勉強の時間ですぞ!…ルーシュ様!!」
クルゾア城の庭園で昼寝をしていたルーシュを起こす小柄な老人の世話係。
「聞こえてるよソイフォ」
「今日の勉強内容は戦時下における…」
「また兵法の類い?戦なんて半世紀も起こってないのに」
両腕を伸ばしながらダルそうな表情を浮かべてソイフォにそう言うルーシュ。
実際、クルゾア王国は険しい山に囲まれている天然の要塞であり、特に戦略的価値が無いため他国から侵略されることは滅多に無かった。
「戦の有無に関わらず、兵法を学ぶのは王族の嗜みだとお考えください。さぁ、お部屋に戻りますぞ」
「はいはい」
いつもと変わらない日常。いつもの様に庭園で寝ている俺をうるさく迎えに来るソイフォ。そして、いつものように部屋に連れ戻されて勉強。当たり前の日常に退屈感を感じつつも、俺はそれなりに充実した毎日を送っていた。
…血塗れの護衛隊長が血相を変えてやってくるまでは。
「王子様!ご、ご無事でしたか!」
突如ルーシュ等の前に現れたのはクルゾア城の護衛隊長バルト。ルーシュとソイフォは所々負傷したバルトの姿に驚くと共に、その様子と姿から城に何か一大事が起きたのだとスグに悟る。
「バルト隊長?何事じゃ?」
「ソイフォ、王子を連れて急いで裏門から脱出しろ!詳細は不明だが、どうやらルーカス宰相がクーデターを起こしたようだ」
「ルーカス…」
護衛隊長の口から出たルーカスという名前。それは父上の右腕と呼ばれていた男の名だった。そんな男が謀反を企てたということは…
「な、なんじゃと!?ルーカスの奴…」
「さぁ、二人とも急いで城から脱出を!今なら難無く逃げられるハズですから」
余裕が無いのか、バルトは二人に護衛も付けずにとにかくスグに城から脱出しろと言う。
「バルト!父上や母上は?」
「ご安心を王子様。親衛隊が総出で王様達をお守りしています。では、私はこれから反乱勢の鎮圧に向いますので…ソイフォ、王子様をくれぐれも頼むぞ」
「分かっておる」
バルトはルーシュのことをソイフォに一任すると、慌ただしくそのまま急いで城門の方に向って走り去った。一方、その場に残されたルーシュとソイフォもバルトの指示通りに急いで裏門に向う事に。
「王子様。裏門に急ぎますぞ!」
「あぁ…」
俺とソイフォは周囲を警戒しながら城の裏門に急ぐ。その道中の城内は恐ろしいほど静かで、すぐ近くで戦闘が行われているなんて想像もできないくらいだった。しかも、全て反乱軍の鎮圧に駆り出されているのか、普段は城を巡回している衛兵の姿はまったく無い。
「そこまでだ!」
キーン
後少しで裏門だというところでバッタリと複数の重厚な鎧を身にまとった騎士達と遭遇したルーシュ達。騎士達はルーシュを見るや否や鋭く尖った長剣をルーシュのノド元目掛けて一斉に突き付ける。どうやら運悪く反乱軍の騎士達と鉢合わせになってしまったようだ。
「貴様ら!王子様に剣を突き付けるとは何事じゃ!!」
慌ててルーシュと騎士達の間に割って入るソイフォ。
「殺せ」
戦闘に立っていた大柄な騎士がソイフォの殺害を命令する。
「やめ…」
俺を守るようにして騎士達に立ちはだかっていたソイフォが、無残にも俺の前で切り捨てられた。止めようと思ったのに一瞬のことで俺は何も…
「がはっ!…王子…ルーシュ…様ぁ」
「ソイフォ!ソイフォ!!しっかりしろ!」
ソイフォは最後の力を振り絞ってルーシュに向って手を差し出す。ルーシュはさっと瀕死のソイフォの手を取り必死に呼びかけるが、既にソイフォは絶命していた。
「ルーシュを縛りあげて牢獄に連行しろ」
大柄な騎士の命令で、息絶えたソイフォに寄り添っていたルーシュは騎士達によって無理やり遺体から引き剥がされ、乱暴に荒縄で上半身をグルグルにきつく縛りあげられる。
「っ!離せ!貴様等どういうつもりだ!なぜ反乱など…」
ピシッ!
喚くルーシュの顔を遠慮なくビンタする騎士。
「うぅ…」
「勝手にベラベラ喋るな!…今頃は玉座も落ちている頃だろう。つまり、お前は既に王子でも何でもないんだよ!」
「くっ…」
既に自分には何の権限も無く、側近すら守れないという現実に絶望するルーシュ。その後、縛りあげられたルーシュは騎士達に剣を突き付けられながらクルゾア城の地下にある牢獄に連れていかれた。