ラムネの季節
連日のように最高気温が更新される猛暑の中、夏服姿の学生たちが息苦しそうに勉学に励んでいた。
その学校は公立校のため、冷房設備などは満足に使用することも出来ず、癒しは大きな窓から時々入ってくる風…それとー
授業の終わりを告げる鐘の音だけだ。
「コウちゃん、今日は先に行ってるね」
HRがおわるや否や、小動物にようにそう言いながら友人に駆け寄る一人の少年。
小柄で幼い顔つきの少年の名は、林崎 秀。そして、秀が呼びかけている秀よりも背丈が倍もある短髪の少年は坂東 浩二。
もっとも、浩二の見た目は青年と言った方がしっくりくるほどシッカリとした体付きだった。
「悪いなショウ!補習が終わったらすぐ行くからよ!」
二人は愛称で呼び合う関係で、同じ水泳部に所属する部員である。
その日は浩二が補習のため、秀一人で部活に向かうことになっていた。
「もう、せっかく夏になってプール使えるようになったのにさぁー」
一人、四畳半程の手狭な部室にたどり着いた秀は、ぶつぶつと補習で練習に遅れる浩二の文句を呟きながら手早く制服を脱ぎ始める。
徐々に程よく引き締まった秀の身体が露わになるが、ヘアが完全に剃られた性器は逆に幼いイメージが強く、なんとも言えないアンバランスな光景だ。
もちろん普段の水泳の授業の際はタオルで身体を隠して着替えるが、とある理由で部室でそれは不要であり、同じくヘアを剃っている浩二とも隠し合ってはいない。
そして、競泳水着への着替えが終わると、秀はジャージの上着だけを羽織ってキャップをポッケに突っ込み、足早に部室を出て校舎の裏手にあるプールへ向かった。
秀達の学校のプールは至ってシンプルな25mのプールだったが、盗撮などを防止するための外壁が異様に高く、校舎外から中の様子を伺うことは無理な構造になっていた。
「うーん!今日もいい天気、最高のプール日和だなぁ…コウちゃんも早く来ないかなぁ」
プールにたどり着いた秀は、上着を脱いでベンチに置くと、キャップを被りプールサイドで独り言を言いながらストレッチを始める。
だが、プールサイドには秀以外の部員や顧問の姿は無く、実質貸切状態。
その理由だが、実はこの水泳部には部員はが秀と浩二の二人しか居ないのだ。
それは、かつて水泳部の顧問が起こした体罰事件が起因するモノであり、殆どの部員は進級と同時に事件を理由に退部していた。
しかも、問題を起こした顧問は既に退職しているにも関わらず、事件の影響で新入生の水泳部への入部は無く、現在の顧問も肩書きだけの顔も出さない教師が担当しているような廃部寸前の部活だ。
それでも純粋に水泳が好きだった浩二は部に残り、秀もとある理由で水泳部に残留することで、二人だけの水泳部が出来上がったのだ。
人気のないプールに響く、水を豪快に掻き分ける音。そこには一人で黙々と練習に勤しむ秀の姿があった。
僕は特に水泳が得意という訳でも無く、大会の本戦に出られる様なレコードも持っていない。
多分、水泳部が廃部にならないのも多分コウちゃんの功績が大きいと思う…
でも、僕はここに居る…それは、僕がコウちゃんのことが好きだからだ。
どうして好きなのかと聞かれると上手く説明出来ないけど、とにかくコウちゃんは僕にとってカッコイイ憧れの人なのだ。
水泳部に誘われたあの日からー
ただ、いつまでも一緒に泳いでいられるかと言うと色々難しく、二人っきりの部活も今年と来年の夏で最後かと思うと辛い…
秀が水泳部に残った理由、それは浩二への憧れに近い恋心からだった。
だが、天才的な水泳センスを持つ浩二は他校からも引っ張りだこであり、スポーツ名門校からの逆推薦も出ている程だ。
しかし、秀が浩二と揃って同じ学校に進学するには金銭的なハードルが高く、二人っきりで過ごせる時間にも限りがある。
それに、浩二が編入で転校する可能性もあり、そうなったらすぐにでもこの日常は失われる。
そんな現実に憂鬱していた秀は、泳ぎ着いた先でプールから上がることもせず、じっと神妙な面持ちでプールの壁に手を置いていた。
そんな時ー
「なにシケた面してんだよショウ!」
プールサイドから秀に呼びかける声、そこには補習で練習に遅れてきた浩二の姿があった。
制服姿からも浩二の体格の良さは一目瞭然だったが、秀のものとは比べもにならいほど鍛え上げられた身体はアスリートのものだ。
「うゎあ!コウちゃんいつの間に!」
「待たせたな!さぁ、バンバン行くぜ!」
浩二はそう言って勢いよくプールに飛び込みむと、一気に得意のクロールでプールを突き進んで行った。
「あぁ…やっぱりコウちゃんは凄いなぁ…」
その姿に圧倒的な実力差を改めて感じ、同時に叶わぬ恋の儚さに思わず涙する秀。
秀は涙を拭い、決して追いつけないと分かっていながらも浩二の後を追って練習を再開した。
そして、そのまま何事も無く時間は過ぎていき、いつの間にかプールサイドにある時計は18時を指しかけていた頃、二人はその日の練習を切り上げ、軽く濡れた身体をハンドタオルで拭くと、プールサイドのベンチからジャージを回収して部室に戻ろうとしていた。
「ふぅ、今日は補習のせいであんまり泳いだって感じしねぇな、残れるなら夜まで居たいぜ!」
「コウちゃんスタミナありすぎ…僕はヘトヘトだよ…だから…一緒に居られないのかなぁ…」
何気ない雑談の際、思わず秀は本音を漏らしてしまった。
ハッとした表情で口を押さえる秀だが、それを聞き逃さなかった浩二は秀に詰め寄る。
「どうしたんだよ急に!なんでそんなこと…」
この時、僕は笑って誤魔化すこともできた。
でも、少しずつ迫ってくる終わりの時に耐えられず、そのままコウちゃんに思ってることをぶつけてしまった。
「推薦貰ったんでしょ…聞いたよ先生から。この時期にってことは…その、転入とかするの?」
浩二に背を向け、俯きながらスポーツ推薦の話をし始める秀。実は浩二から推薦の話は聞いておらず、秀もつい先日に顧問から聞いたばかりだった。
だが、直接そのことを浩二に聞く勇気が持てなかった秀は、浩二への事実確認を先延ばしにしていたのだ。
秀はこれで終わったと思いながら、ぐっと両手を握りしめ、浩二からの返事を待つ。
そして、浩二は秀に告げたー
「あーなんだよその話か…それなー断った」
「!?」
思いもしていなかった浩二の返答に驚いた秀は、思わず振り返り、浩二の肩を無意識に掴んだ。
「どうして!?あの学校なら設備もスゴイし、コウちゃんならエースだよ!馬鹿なの!?」
僕はコウちゃんを気がついたら怒鳴っていた。でも、なんで僕は怒ってるんだろう…嬉しいハズなのに…???
推薦の話を蹴ったと告げられた秀は、浩二が折角の才能を活かそうとしていないのではと感じ、本音とは矛盾しているが怒りを感じていたのだ。
秀にとって浩二と一緒に入れれることも大切だが、それ以上に浩二にもっと大きな舞台で活躍して欲しいという願望もあるのだ。
だが、続けて浩二に告げられた言葉でその怒りは一瞬で吹き飛ぶことに…
「いやぁ…なんでかな…その…俺さ、ショウと一緒に居たいんだよ。泳ぐのはドコでもいいし!」
「え…コウちゃん?」
浩二の発言が理解できず、ポカーンとした表情で浩二を見つめる秀。
「えっと……今のは無しで!アハハ…悪りぃ、急に気持ち悪いよな!じゃ、俺先に行くからーっ!?」
「僕も…コウちゃんと一緒に居たい…」
秀の反応に慌てて発言を撤回し、その場から逃げ出そうとする浩二だが、そんな浩二の背中に秀は咄嗟にギュッと抱きつきそう告げた。
「ショウ…」
浩二はそんな秀の反応に慌てることもなく、落ち着いた様子で優しく秀の腕を解くと、秀の方に振り返り抱きしめ返した。
そして、秀の耳元でこう告げるー
「ずっと黙ってたんだけど、俺…ずっとショウが好きだったんだ」
予期せぬ浩二からの告白と、先ほどからの怒涛の急展開に秀の思考回路は恥ずかしで焼き切れそうになっていた。
「あ…えっ…その…僕も!でも、なんで急に…それに男同士だし…」
嬉しいというより驚きの方が強くて、僕も思わず勢いで思いを伝えてしまう。
そして、コウちゃんに初めて抱きしめられ感じはトロけそうなぐらい心地よかった…けど、その後コウちゃんに言われた一言で僕の心臓は大暴走することにー
「今日告った理由?…あーその…この前、お前…俺の水着でシてたろ…それで決意できた」
「ど、どうしてそれを!!!」
「いやぁ、あの日は家の用事で急いでてさ、水着をうっかり置き忘れて取りに戻ったら…お前が俺の水着クンクンしてたり…穿いてシコってたから…その…こっそり見てた」
「あ…あぁ…」
あれは数日前の部活終わりだった。
その日は何故かコウちゃんは珍しく早上がりで、僕も少し遅れて部室で着替えていたら、メチャクチャ目立つ場所にコウちゃんの水着が置いてあって…
そして、僕は推薦のこともあって色々悩んでたし、それを手に取って…嗅いで…コウちゃんの水着を履いて…その…どうせ誰も居ないと開き直ってエッチなことをしてしまったのだ。
「ひ、酷いよぉ!」
「いや!シュウも結構酷いぞ!」
秀は数日前の部室での自慰行為を思い出しながら、逆ギレしてポンポンと浩二の胸を叩く。
すると浩二はー
「…仕方ねぇな…ほら、これであいこだろ」
そう言いながら、秀の着ていたジャージのファスナーをゆっくりと下ろし、露わになった秀の胸のピンク色の突起を舌先でイヤらしく舐めはじめた。
「コウちゃん…んっ…」
この時、コウちゃんも完全にスイッチが入っていたのか…何があいこなのかは意味不明だったけど…なんか物凄くエロくて…
二人はいつの間にか水着越しに膨らんだ股間を、お互いに擦り付ける様にしながら、誰もいない二人っきりのプールサイドで唇を重ね合った。
それからも僕等は隠れカップルになり、こっそりプールでデートも兼ねたエッチなことをしていたけど、結局卒業と同時に僕とコウちゃんは別々の学校に進学した。
コウちゃんは一緒の学校がいいって言ってくれたけど、やっぱり僕はコウちゃんがカッコよく、誰よりも速く泳いでいる姿も好きだったから…
僕から強引に別れを切り出して、コウちゃんには名門校に行く様にって言ったんだ…もちろんその日はメチャクチャ泣いた…自分で別れを言い出したクセに…
だって、時期的に僕らは部活も退部していて、教室でしか顔を合わせる機会もなく、話すことも無くなったからだ。
ただ、あんなに勉強嫌いだったコウちゃんが真面目に勉強し始めていたのは意外だったけど…
ちなみに廃部寸前だった水泳部は、コウちゃんが大会で優勝したことで学校が注目され、そこそこ人が集まって廃部は免れた。
まぁ、コウちゃん目当ての入部だったハズだから、コウちゃんから学べる機会が短くて少し可哀想な気もするけど…
僕も最後の夏は、部活のご褒美がなくなって微妙な気分だったけどね!
そして新学期の登校日ー
「コウちゃん?なんで…その制服…」
足早に家を出た直後、そこには秀の学校の制服を着た浩二の姿が。
「何ボサっとしてんだショウ!遅れっぞ!」
いつから待っていたのか定かでは無いが、浩二は秀の登校を待っていた様子だった。
「どうして…」
有り得ない光景に唖然とする秀。そんな秀に浩二は笑顔でこう告げた。
「あのなぁ、あんな露骨な振り方ってないだろ普通。それに、やっぱお前と一緒に居たいんだよ」
「でも、コウちゃんなら五輪だって…」
「俺はさぁ、泳げる場所とショウが居ればどこだっていんだよ。それに、何処に居ても俺は最強だぜ!…だから、シュウと一緒に目指したい」
「!」
僕はもうそれ以上は何も聞かなかった。
僕が進学した学校は普通の公立高だけど、コウちゃんが入学するには相当な努力が必要だったハズだ。
僕の一方的な押し付けで、結果的にコウちゃんには負担を強いてしまったと思うと申し訳ない気持ちでいっぱいだったけど…
今はなによりも嬉しかったー
「コウちゃん…後で文句言わないでよ!」
「あーでも、推薦勝手に蹴った件を謝りに行くのついて来てくれねぇか…俺勝手に決めちまったからさ!ハハハ!」
「コウちゃん!?」
そして、僕達の新しい生活がまた始まったー
その学校は公立校のため、冷房設備などは満足に使用することも出来ず、癒しは大きな窓から時々入ってくる風…それとー
授業の終わりを告げる鐘の音だけだ。
「コウちゃん、今日は先に行ってるね」
HRがおわるや否や、小動物にようにそう言いながら友人に駆け寄る一人の少年。
小柄で幼い顔つきの少年の名は、林崎 秀。そして、秀が呼びかけている秀よりも背丈が倍もある短髪の少年は坂東 浩二。
もっとも、浩二の見た目は青年と言った方がしっくりくるほどシッカリとした体付きだった。
「悪いなショウ!補習が終わったらすぐ行くからよ!」
二人は愛称で呼び合う関係で、同じ水泳部に所属する部員である。
その日は浩二が補習のため、秀一人で部活に向かうことになっていた。
「もう、せっかく夏になってプール使えるようになったのにさぁー」
一人、四畳半程の手狭な部室にたどり着いた秀は、ぶつぶつと補習で練習に遅れる浩二の文句を呟きながら手早く制服を脱ぎ始める。
徐々に程よく引き締まった秀の身体が露わになるが、ヘアが完全に剃られた性器は逆に幼いイメージが強く、なんとも言えないアンバランスな光景だ。
もちろん普段の水泳の授業の際はタオルで身体を隠して着替えるが、とある理由で部室でそれは不要であり、同じくヘアを剃っている浩二とも隠し合ってはいない。
そして、競泳水着への着替えが終わると、秀はジャージの上着だけを羽織ってキャップをポッケに突っ込み、足早に部室を出て校舎の裏手にあるプールへ向かった。
秀達の学校のプールは至ってシンプルな25mのプールだったが、盗撮などを防止するための外壁が異様に高く、校舎外から中の様子を伺うことは無理な構造になっていた。
「うーん!今日もいい天気、最高のプール日和だなぁ…コウちゃんも早く来ないかなぁ」
プールにたどり着いた秀は、上着を脱いでベンチに置くと、キャップを被りプールサイドで独り言を言いながらストレッチを始める。
だが、プールサイドには秀以外の部員や顧問の姿は無く、実質貸切状態。
その理由だが、実はこの水泳部には部員はが秀と浩二の二人しか居ないのだ。
それは、かつて水泳部の顧問が起こした体罰事件が起因するモノであり、殆どの部員は進級と同時に事件を理由に退部していた。
しかも、問題を起こした顧問は既に退職しているにも関わらず、事件の影響で新入生の水泳部への入部は無く、現在の顧問も肩書きだけの顔も出さない教師が担当しているような廃部寸前の部活だ。
それでも純粋に水泳が好きだった浩二は部に残り、秀もとある理由で水泳部に残留することで、二人だけの水泳部が出来上がったのだ。
人気のないプールに響く、水を豪快に掻き分ける音。そこには一人で黙々と練習に勤しむ秀の姿があった。
僕は特に水泳が得意という訳でも無く、大会の本戦に出られる様なレコードも持っていない。
多分、水泳部が廃部にならないのも多分コウちゃんの功績が大きいと思う…
でも、僕はここに居る…それは、僕がコウちゃんのことが好きだからだ。
どうして好きなのかと聞かれると上手く説明出来ないけど、とにかくコウちゃんは僕にとってカッコイイ憧れの人なのだ。
水泳部に誘われたあの日からー
ただ、いつまでも一緒に泳いでいられるかと言うと色々難しく、二人っきりの部活も今年と来年の夏で最後かと思うと辛い…
秀が水泳部に残った理由、それは浩二への憧れに近い恋心からだった。
だが、天才的な水泳センスを持つ浩二は他校からも引っ張りだこであり、スポーツ名門校からの逆推薦も出ている程だ。
しかし、秀が浩二と揃って同じ学校に進学するには金銭的なハードルが高く、二人っきりで過ごせる時間にも限りがある。
それに、浩二が編入で転校する可能性もあり、そうなったらすぐにでもこの日常は失われる。
そんな現実に憂鬱していた秀は、泳ぎ着いた先でプールから上がることもせず、じっと神妙な面持ちでプールの壁に手を置いていた。
そんな時ー
「なにシケた面してんだよショウ!」
プールサイドから秀に呼びかける声、そこには補習で練習に遅れてきた浩二の姿があった。
制服姿からも浩二の体格の良さは一目瞭然だったが、秀のものとは比べもにならいほど鍛え上げられた身体はアスリートのものだ。
「うゎあ!コウちゃんいつの間に!」
「待たせたな!さぁ、バンバン行くぜ!」
浩二はそう言って勢いよくプールに飛び込みむと、一気に得意のクロールでプールを突き進んで行った。
「あぁ…やっぱりコウちゃんは凄いなぁ…」
その姿に圧倒的な実力差を改めて感じ、同時に叶わぬ恋の儚さに思わず涙する秀。
秀は涙を拭い、決して追いつけないと分かっていながらも浩二の後を追って練習を再開した。
そして、そのまま何事も無く時間は過ぎていき、いつの間にかプールサイドにある時計は18時を指しかけていた頃、二人はその日の練習を切り上げ、軽く濡れた身体をハンドタオルで拭くと、プールサイドのベンチからジャージを回収して部室に戻ろうとしていた。
「ふぅ、今日は補習のせいであんまり泳いだって感じしねぇな、残れるなら夜まで居たいぜ!」
「コウちゃんスタミナありすぎ…僕はヘトヘトだよ…だから…一緒に居られないのかなぁ…」
何気ない雑談の際、思わず秀は本音を漏らしてしまった。
ハッとした表情で口を押さえる秀だが、それを聞き逃さなかった浩二は秀に詰め寄る。
「どうしたんだよ急に!なんでそんなこと…」
この時、僕は笑って誤魔化すこともできた。
でも、少しずつ迫ってくる終わりの時に耐えられず、そのままコウちゃんに思ってることをぶつけてしまった。
「推薦貰ったんでしょ…聞いたよ先生から。この時期にってことは…その、転入とかするの?」
浩二に背を向け、俯きながらスポーツ推薦の話をし始める秀。実は浩二から推薦の話は聞いておらず、秀もつい先日に顧問から聞いたばかりだった。
だが、直接そのことを浩二に聞く勇気が持てなかった秀は、浩二への事実確認を先延ばしにしていたのだ。
秀はこれで終わったと思いながら、ぐっと両手を握りしめ、浩二からの返事を待つ。
そして、浩二は秀に告げたー
「あーなんだよその話か…それなー断った」
「!?」
思いもしていなかった浩二の返答に驚いた秀は、思わず振り返り、浩二の肩を無意識に掴んだ。
「どうして!?あの学校なら設備もスゴイし、コウちゃんならエースだよ!馬鹿なの!?」
僕はコウちゃんを気がついたら怒鳴っていた。でも、なんで僕は怒ってるんだろう…嬉しいハズなのに…???
推薦の話を蹴ったと告げられた秀は、浩二が折角の才能を活かそうとしていないのではと感じ、本音とは矛盾しているが怒りを感じていたのだ。
秀にとって浩二と一緒に入れれることも大切だが、それ以上に浩二にもっと大きな舞台で活躍して欲しいという願望もあるのだ。
だが、続けて浩二に告げられた言葉でその怒りは一瞬で吹き飛ぶことに…
「いやぁ…なんでかな…その…俺さ、ショウと一緒に居たいんだよ。泳ぐのはドコでもいいし!」
「え…コウちゃん?」
浩二の発言が理解できず、ポカーンとした表情で浩二を見つめる秀。
「えっと……今のは無しで!アハハ…悪りぃ、急に気持ち悪いよな!じゃ、俺先に行くからーっ!?」
「僕も…コウちゃんと一緒に居たい…」
秀の反応に慌てて発言を撤回し、その場から逃げ出そうとする浩二だが、そんな浩二の背中に秀は咄嗟にギュッと抱きつきそう告げた。
「ショウ…」
浩二はそんな秀の反応に慌てることもなく、落ち着いた様子で優しく秀の腕を解くと、秀の方に振り返り抱きしめ返した。
そして、秀の耳元でこう告げるー
「ずっと黙ってたんだけど、俺…ずっとショウが好きだったんだ」
予期せぬ浩二からの告白と、先ほどからの怒涛の急展開に秀の思考回路は恥ずかしで焼き切れそうになっていた。
「あ…えっ…その…僕も!でも、なんで急に…それに男同士だし…」
嬉しいというより驚きの方が強くて、僕も思わず勢いで思いを伝えてしまう。
そして、コウちゃんに初めて抱きしめられ感じはトロけそうなぐらい心地よかった…けど、その後コウちゃんに言われた一言で僕の心臓は大暴走することにー
「今日告った理由?…あーその…この前、お前…俺の水着でシてたろ…それで決意できた」
「ど、どうしてそれを!!!」
「いやぁ、あの日は家の用事で急いでてさ、水着をうっかり置き忘れて取りに戻ったら…お前が俺の水着クンクンしてたり…穿いてシコってたから…その…こっそり見てた」
「あ…あぁ…」
あれは数日前の部活終わりだった。
その日は何故かコウちゃんは珍しく早上がりで、僕も少し遅れて部室で着替えていたら、メチャクチャ目立つ場所にコウちゃんの水着が置いてあって…
そして、僕は推薦のこともあって色々悩んでたし、それを手に取って…嗅いで…コウちゃんの水着を履いて…その…どうせ誰も居ないと開き直ってエッチなことをしてしまったのだ。
「ひ、酷いよぉ!」
「いや!シュウも結構酷いぞ!」
秀は数日前の部室での自慰行為を思い出しながら、逆ギレしてポンポンと浩二の胸を叩く。
すると浩二はー
「…仕方ねぇな…ほら、これであいこだろ」
そう言いながら、秀の着ていたジャージのファスナーをゆっくりと下ろし、露わになった秀の胸のピンク色の突起を舌先でイヤらしく舐めはじめた。
「コウちゃん…んっ…」
この時、コウちゃんも完全にスイッチが入っていたのか…何があいこなのかは意味不明だったけど…なんか物凄くエロくて…
二人はいつの間にか水着越しに膨らんだ股間を、お互いに擦り付ける様にしながら、誰もいない二人っきりのプールサイドで唇を重ね合った。
それからも僕等は隠れカップルになり、こっそりプールでデートも兼ねたエッチなことをしていたけど、結局卒業と同時に僕とコウちゃんは別々の学校に進学した。
コウちゃんは一緒の学校がいいって言ってくれたけど、やっぱり僕はコウちゃんがカッコよく、誰よりも速く泳いでいる姿も好きだったから…
僕から強引に別れを切り出して、コウちゃんには名門校に行く様にって言ったんだ…もちろんその日はメチャクチャ泣いた…自分で別れを言い出したクセに…
だって、時期的に僕らは部活も退部していて、教室でしか顔を合わせる機会もなく、話すことも無くなったからだ。
ただ、あんなに勉強嫌いだったコウちゃんが真面目に勉強し始めていたのは意外だったけど…
ちなみに廃部寸前だった水泳部は、コウちゃんが大会で優勝したことで学校が注目され、そこそこ人が集まって廃部は免れた。
まぁ、コウちゃん目当ての入部だったハズだから、コウちゃんから学べる機会が短くて少し可哀想な気もするけど…
僕も最後の夏は、部活のご褒美がなくなって微妙な気分だったけどね!
そして新学期の登校日ー
「コウちゃん?なんで…その制服…」
足早に家を出た直後、そこには秀の学校の制服を着た浩二の姿が。
「何ボサっとしてんだショウ!遅れっぞ!」
いつから待っていたのか定かでは無いが、浩二は秀の登校を待っていた様子だった。
「どうして…」
有り得ない光景に唖然とする秀。そんな秀に浩二は笑顔でこう告げた。
「あのなぁ、あんな露骨な振り方ってないだろ普通。それに、やっぱお前と一緒に居たいんだよ」
「でも、コウちゃんなら五輪だって…」
「俺はさぁ、泳げる場所とショウが居ればどこだっていんだよ。それに、何処に居ても俺は最強だぜ!…だから、シュウと一緒に目指したい」
「!」
僕はもうそれ以上は何も聞かなかった。
僕が進学した学校は普通の公立高だけど、コウちゃんが入学するには相当な努力が必要だったハズだ。
僕の一方的な押し付けで、結果的にコウちゃんには負担を強いてしまったと思うと申し訳ない気持ちでいっぱいだったけど…
今はなによりも嬉しかったー
「コウちゃん…後で文句言わないでよ!」
「あーでも、推薦勝手に蹴った件を謝りに行くのついて来てくれねぇか…俺勝手に決めちまったからさ!ハハハ!」
「コウちゃん!?」
そして、僕達の新しい生活がまた始まったー