一寸の光
ガラガラ…
「注目~!おい、みんなこっち向けよ!翼がヤバイwwww」
教室のドアを開けるや否や、下っ端の一人が大声でクラスメイトの注目を集める。すると、その声に反応したクラス中の生徒の視線が一斉にドアの前にいる翼に向けられた。
「おい、あれ翼か?」
「何だ?あの姿…」
「美鶴がやったのか?」
翼の変わり果てた姿に驚愕し、ガヤガヤ騒ぎ出すクラスメイト。一方、翼は自身に向けられるクラスメイトの好奇な眼差しに耐えられず、涎をボールギャグの穴からダラダラと垂らしながら顔を俯かせている。
「さてと、翼の新しい席に案内してあげるよ」
「ふぅんふぃぐらふぃうぅ?」
美鶴は首輪に繋がれている鎖をグイグイと引っ張り、俺を教室の後ろに連れていく。
やがて、半畳ほどの新聞紙が広げられた場所まで来ると美鶴はそこで足を止め、ここがお前の席だと言ってきた。
「翼は今日からここで勉強するんだよ」
「ふぅん!ふんぅふぇうぅん!!」
ボールギャグが口に装着させられ思うように話すことが出来ない翼を、美鶴は笑顔でよしよしと頭を撫で回し、手に持っていた鎖を補強用の柱にしっかりと固定する。
「これで逃げられないぞ。…よし、次は手錠の解除だな…流石にその状態じゃあ勉強なんて無理だし」
美鶴はそう言うと、翼を後ろ手に固定していた手錠を外す。
「ふぅうん!!」
手錠を外した次の瞬間、翼は真っ先にボールギャグを取り外そうとして後頭部の固定された止め金をカチャカチャ弄くり始める。しかし、ボールギャグの止め金は専用の鍵で固定されていて外すのはおろか、ズラすことも出来ない。
「すぐに取ってあげたのに~罰として「餌の時間」以外は装着したままね」
「ふぅんぅうう!ふぅふふんふぅうう!!」
始めから外す気のない美鶴の発言に翼は激怒するが、美鶴はそれを完全に無視して下っ端の一人に翼ロッカーから、その日の時間割の教科書等を持ってくるように命じた。
「……美鶴さん、コレ何処に置けばいいですか?」
やがて、下っ端の一人が翼の教科書類を持ってくる。
「ご苦労、教科書は翼の手が届く範囲にでも適当にバラまいといてくれ。…それじゃ翼、また後でねv」
「ふんふぅうう!!」
「オラぁ!お前の勉強道具だ!」
「ふぅん!!」
自分の席に戻る美鶴を呼び止める翼、そんな翼に向って下っ端の一人が手に持っていた翼の教科書などを翼に目掛けて投げつける。…その後、下っ端は美鶴達の後を追うように翼の前から消えた。
…朝のHRの時間。
チャイムが教室に鳴り響き、それと同時に担任が教室に入ってくる。
教卓に立った後、担任は一瞬だけ俺に目を向けるが助けようとはしてくれなかった。
「それじゃ、出席を取るぞ……」
やがて朝のHRが終わると、担任は結局翼のことには一切触れずに教室を後にする。そして、担任と入れ違いで数学の教師が教室に入ってきた。
「では、教科書3597ページの…」
いつものことだが、数学の教師は挨拶もせずにいきなり授業を開始する。担任と同様に翼に対しては知ってか知らずか無反応だ。翼はしかたなく周囲に散らばった勉強道具を集め、その中から数学の教科書とそのノートを取り出すと、それを新聞紙の上に広げて胡坐をかいた状態で授業を受け始める。
「ふぅん…ふぅうううう!」
翼は視力に問題が無いため、その後もなんとか黒板の文字を見てノートを取ることが出きたが、ボールギャグの穴からダラダラと垂れ続ける涎が障害になり、結局まともな授業を受けられる状態ではない。
「ふぅん…ふぅん…ふぅふんぅ…ふぅ?」
(ノートに涎が…このままじゃ…ん?)
涎の処理に翼が困っていると、何処からかクシャクシャに丸めこまれた紙が翼に投げつけられた。翼はどうせ美鶴達の嫌がらせだろと思いつつも、その丸められた紙をなんとなく開いてみることにした。
すると…
~翼へ~
ノートは後でコピーして渡すから、翼は大雑把に授業の内容を聞いていて。今度の試験で学年1位になれば先生達も動いてくれるよ!俺はこんなことしか出来ないけど、今はなんとか耐え抜いてくれ!この紙はとりあえず次の休み時間に取りに行くから。 栗本より。
紙を開くと、それは幼馴染で親友でもある雄一からの手紙だった。
俺は咄嗟に雄一の方に視線を向けると、雄一はさり気なく俺に向ってVサインを送っている。
「ふぅふうぅう…」
(雄一…)
翼は雄一に向って、美鶴達にばれない様に笑顔でペコリと頭を下げた。
やがて、数学の授業も終わり休み時間になると、雄一は一目散に美鶴達より先に翼の元に向い、無事に紙を回収。去り際に翼にだけ聞こえるような声で「頑張れ」とだけ告げて去って行く。短い励ましの言葉ではあったが、翼は心の中で雄一に精一杯の感謝の言葉を告げる。
(ありがとう…雄一)
「翼、どうした?」
「!?」
不意に美鶴に話しかけられ驚く翼。
「あ、…さっき栗本が来なかったか?もう居ないけどさぁ。…確かアイツはお前の親友だったよな?まったく…親友がペット扱いされているってぇのに、文句の一つも俺に言えないなんて哀れな奴だよなぁ。まぁ、エリートっても下の下だしなぁ」
「…」
親友の悪口を言われ、翼は美鶴を鋭く睨みつける。それに対して美鶴は、笑みを浮かべながら翼の顔を眺めてこう言った。
「そんなに睨むなよwもしかして…翼は狂犬病かなwww」
「…」
「何だよ…犬語は聞かせてくれないのか?…まぁ、「餌」の時間まで放置して置いてやるか」
美鶴は翼にそう言うと、特に何もせずに自分の席に戻って行く。
「…」
本来ならば悪戯をされない事に越したことは無いが、翼には朝からチラつかされている「餌」いう言葉が気になってしょうがなかった。
(餌…給食のことだろうけど、一体どんなことをする気なんだ…)
うはぁ…つまんねえぇ…(スイマセン
恥辱塗れの給食に続きます。