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Secret Garden 敗戦国の少年 前編
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敗戦国の少年 前編

宇宙世紀0080年 X月X日 サイド3


「あの…俺…新兵で、その…」

慌ただしい工場内にうろうろと迷い込む様に入ってきたノーマルスーツ姿のジオン兵。だが、その初々しい容姿と様子はとても軍属のものとは思えず、その場に似つかわしいものだった。

「君は?ここは訓練所じゃないぞ」

誰にも相手にされず、工場内をキョロキョロと涙目で佇む少年兵を見かねてか、兵士が少年に話しかける。

「あ、俺…じゃなくて、自分はクルト・ヤー少尉です!き、機体の受領と、その機体に搭乗してア・バオア・クーへの移動を命じられました」

「君が補充要員の少尉?人員不足だとは聞いていたが…MSハンガーに案内しよう。自分はレープ・グファンタ大尉だ。よろしく」

「あ…よろしくお願いします!」

レープはニコっとクルトに笑いかけながらそう言う。すると、さっきまでガチガチに緊張していたクルトの緊張が少し解けたのか、ようやく表情と挙動に余裕が生まれてきた。

二人は戦時で騒がしい工場内を、MSハンガー目指して進む。その道中、クルトの眼には死んだように眠っているパイロットや、ふらふらになりながらも整備を続ける整備士、だらしなく散乱したMSのパーツと思われる残骸などや半壊した戦艦など、今の余裕の無いジオンの内情が嫌でも視界にチラつく。

「大尉…ジオンは連邦に勝てるのですか?」

ふと、弱気な声で戦争の現状についてレープにそう尋ねるクルト。

「君が気にする事じゃない…なんて言いたいが、正直状況は切迫しているとしか思えん。だがな、与えられた任務を確実にこなしていけば負けることは無いさ」

「は、はい!」

「心配するな。ここからア・バオア・クーに移動するだけの任務だ。戦闘になることはないよ」

「…」

そうは言われたものの、かならず敵が襲ってこないという保証は無い。レープに安心するように諭されたクルトではあったが、内心マニュアルでしかMSを操作したことがないクルトにとって、やはり敵の奇襲という不安要素は取り除けずにいた。

「さぁ、あそこがMSハンガーだ」

そうこうしている内に、二人は目的地であるMSハンガーに辿り着く。

「…」

辿り着いたMSハンガーは先程までの騒がしい様子とは打って変わり、不気味な静寂に包まれている。どうやら既にMSの整備は完了しているようであり、整備兵の姿も消えていた。

「ア・バオア・クー移動のMSパイロットだ。準備は完了しているな?」

「はい、大尉と少尉の機体は既に発信準備完了しております。搭乗後、速やかにア・バオア・クーへ向かってください。では…」

その場に唯一残っていた連絡兵からレープは簡単な機体受領を終えると、クルトに手前のMSに搭乗するよう指示を出す。

「私は後ろの機体に搭乗する。君はこの機体に搭乗しなさい。…あぁ、ザクⅡの搭乗経験は?」

「訓練用の旧式なら…」

「それなら問題無いな、機動させて先に出撃してくれ。…なに、外に出た後は私が先行するから安心しろ」

「は、はい!よろしくお願いします!」

レープはポンっとクルトの肩を叩くと、自身の搭乗するザク目掛けてジャンプ跳躍して行く。一方、その場に残されたクルトは眼前にそびえ立つ巨人を前にプルプルと身体を震わせながらも、自身も跳躍を行ってザクのコックピットに取り付いた。

「これがザク。まさか俺が乗ることになるなんて…コンペでアイス片手にバカ言いながら眺めてたなぁ」

会戦時に行われたMSコンペを友人と一緒に見に行ったことを思い出すクルト。それはたった半年前の出来事なのに、なぜだかクルトにとっては遠い過去の出来事のようにしか思えなかった。

「少尉、聞こえるか?搭乗は完了したか?」

ハッチを開けて中に入るや否や、さっそくレープからの通信が入る。

「はい!搭乗完了しました。スグに出ます…」

クルトは慌ててレープへの返信を行うと、慣れない手つきでスティクを握り、以前行った通りにザクを起動させる。

「動いた?」

コックピットに響く鈍いモーター音と金属音。ゴゴゴという音と共にクルトの操縦するザクは一歩一歩ゆっくりと前進を行い、モニター越しに映る無限の暗闇の中に吸い込まれるようにして進む。

「これが…宇宙?そりゃ、コロニー育ちだけど…何か」

宇宙空間に出た瞬間、クルトは言葉では言い表せないような特殊な感覚に陥ると共に、コックピットの狭さとは別の窮屈感と息苦しさが身体を襲う。

「行けそうか少尉?」

ガツンという音と共に機体内に響き渡るレープの声。妙な感覚に襲われていたクルトはその声で我にかえり右のモニターに目を移すと、レープが搭乗していると思われるザクが、自機の肩を掴む様にして接触回線を行ってきた。

「大尉ですか?…宇宙ってなんか…正直…」

「怖いのか?まぁ、最初は誰でも同じ気持ちになるさ…私だって慣れただけのことだ。…そうそう、要塞の位置の入力は済んでいるか?」

「は、はい。ア・バオア・クーはとらえています」

「よし、ここからは私に続け!」

「えっ、ハイっ!」

ブースタ-で加速を行うレープのザクに追随するようにして後を追うクルト。
その後、二機は何事も無くア・バオア・クーのある宙域まで辿り着くのだが…



「大尉、あの光は?」

「私にも何だか…我が軍のものなのか…戦闘?」

要塞から輝く複数の謎の輝き。二人がその光をモニター越しに確認できた時には既に何もかも手遅れだった。

PPPPPPP!

突然コックピット内に響き渡る警告音。予期せぬ警戒信号にクルトは動揺してパニックに陥る。

「た、大尉!?どうなっているんですか!」

「落ち着け少尉!…ロックオンされている?まさか連邦軍…馬鹿な…こんな報告は…違う!戦闘なんて…いや、そんな…こんなところで…死ぬ?」

伝令ミスがあったのか定かでは無いが、二人が向うように指示されたア・バオア・クーは、既にジオン軍と連邦軍の総力戦が行われる激戦地へと変貌を遂げていた。当初、このような事態に陥るとは思っていなかったレープは、必死にクルトに落ち着く様に訴えるものの、肝心のレープ自身がクルト以上に動揺を隠せずに慌てふためく。

「大尉!」

「と、とりあえず引き返すぞ。こんな所に…」

「引き返す分の推進剤…酸素だって足りないよ!しっかりしろよ!あぁ…」

「そんなことは分かってる!だが、進んだら死ぬぞ!装備無しで要塞に取り付くのは無理だ!」

「でもぉ…うぅ」

「っ!来るぞ」

ヒュンッ!

パニック状態で混乱する二人のザク目掛け、容赦無く振りかかるビーム兵器の閃光。幸いにもレンジ外なのか、二人の乗っているザクには一発も命中することは無かった。しかし、連邦軍のMS部隊は確実に2機の元に攻め寄ってくる。

「!!」

と、次の瞬間。クルトの乗るザクにビーム攻撃が命中したのか、コックピットに物凄い衝撃負荷がかかり、クルトはその衝撃に耐えることが出来ずに失神してしまった。






「う、うぅ…俺は…生きてる…っ!!」

パッと目を見開き、咄嗟に状態を起こすクルト。しかし、そこは先程まで自分が座っていたザクのコックピットでは無く、見なれない施設のベッドの上だった。

「ここは…んっ?」

ふと、両手の自由が利かないことに気が付いたクルト。この時、クルトの両手は後手にテープか何かで手首をグルグル巻きにされており、その事実は今現在のクルトの「状況」を明確に物語っていた。もちろんクルト自身もすぐにそのことに気付くのだが…

「拘束されている?…まさか!」

「おやおや、何か物音がしたと思ったら目が覚めたかジオン小僧」

「連邦…」

シャッと勢いよく閉じられていたカーテンが開くと、そこには連邦軍パイロットの姿があった。どうやらクルトは、あの状況から奇跡的に一命は取り留めたものの、なんと敵軍である連邦軍に捕まってしまっていたのだ。

「お前の乗っていた一つ目は様子が変だったからな。隊長が落とさずに捕獲を命じたんだよ…へへっ、感謝しろよ」

そう言いながら不気味な笑みを浮かべる連邦兵。

「あっ…大尉は…もう一機のザクは?」

捕虜になってしまい、とても安堵できるような状態では無いのだが、ある程度落ち着いたクルトは一緒にア・バオア・クーを目指していたレープのことを思い出し、連邦兵にその安否について尋ねる。

「もう一機…あぁ、あの逃げ出したザクか…あれに乗っていたのはお前の上官か?」

「それで、どうなったの?」

「もちろん撃墜してやったよ。背後からライフルでズキューンってなぁ。しかし、お前はホントにラッキーな奴だ。まぁ、それも今に…」

「大尉が…死んだ…」

連邦兵は会話を続けているが、クルトの耳には既に何も届いていなかった。工場で知り合ったばかりのとても短い付き合いで、特にレープに対して思い入れがある訳では無いのだが、生き死にとなると落胆せざる負えない心情なのだろう。

「おい、ちゃんと聞いているのか?俺の武勇伝?」

「…」

「シカトするんじゃねぇーよ!」

放心状態のクルトに食ってかかる連邦兵は、ギュッとクルトの頬を利き手で鷲掴みにして締め上げる。それに思わずクルトも声を上げた。

「んぐぅ!」

「おらぁ、ちゃんと人の話は聞けよ!捕虜の分際で図に乗るな」

そう言って投げ捨てるようにして掴んでいた手を放す連邦兵。クルトは連邦兵の乱暴な態度に怒りを覚えつつも、今はそれを表に出さずに今後の自身の処遇について尋ねる。

「俺をこれからどうするんだ…刑務所に送るのか?」

「あぁ、捕虜の扱いについては南極条約に…ってなぁ感じ「だった」けど、今はどうなんだろうな…そら、ベッドから出ろ。隊長がブリーフィングルームでお待ちだ」

「どういうことだ…うっ」

連邦兵はクルトをベッドから半ば強引に引っ張り上げると、ブリーフィングルームに連れて行くとだけ告げられ、無重力ながらも自由の利かない身体を家畜の様な扱いでブリーフィングルームまで歩かさせられた。



エロ編に続く。

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