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Secret Garden 帰らずの家 その1
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帰らずの家 その1


「大変だぁ…早く家に帰らないと…はぁ、はぁ」

薄暗い森の中を、息を切らして駆け抜ける一人の少年。少年の片手には食料品が詰まったカゴが握られており、少年の激しい動作に連動するようにして大きく揺れる。

「太陽が…」

木々のスキ間から煌めく夕日がジリジリとその光を失っていく様子に、少年の焦り模様が増していく。

ナッツ、お日様が沈む前に森を抜けなさい-

おじいさんがいつも僕に行っていた言葉だ。おじいさんは僕が町に出かけるたびにそう言って僕を見送る。正直言って特に気にしてはいなかったけど、今は一刻も早く森から出ようと僕は急ぎ足になっていた。

「あっ、ちょ!」

ナッツの足並みが早くなったと同時に、その衝撃でポロンとカゴの一番上に置いてあったグレープフルーツがカゴから勢いよく飛び出す。しかも、こぼれ落ちたそれは意思をもったようにコロコロと勢いよく転がり始め、一寸先の茂みの中にあっと言う間に消える。

「あぁーもぉ!急いでるのに」

ブツブツ文句を言いながら、茂みの中に消えていったグレープフルーツを急ぎ足で取りに行くナッツ。

「あれ?どこだ?おかしいなぁ…どうして…あっ」

道脇の茂みにしゃがみ込み、ガサガサと音を立てながらグレープフルーツを探すナッツ。しかし、いくら茂みの中をあさってもなぜだか一向にグレープフルーツは見つからず、ナッツは半ば諦めかけて立ち上がった。とその時、眼の前に広がる薄暗い森の中に人の姿を見つけたナッツ。

「だ、誰?子供?」

森の中から僕の方をジッと見てくるその子は、表情とか暗くてよく見えなかったけど僕より少し大きい子だ。その子がスグになんだか気味が悪いと思った僕は、落とした果物を諦めてさっさと家に帰ろうとした。

「おい!これ、お前のだろ?」

「っ!」

ナッツが背を向けたと同時に、森の奥に居る少年がナッツを呼びとめる。ナッツは突然の呼びかけにビクンと身体を震えさせて反応すると、ゆっくりと少年の方に振り返った。

「それは…」

少年の手に握られていたのは、まさしくついさっきナッツが落として紛失したグレープフルーツ。

「あ、ありが…」

「返して欲しいか?」

ナッツがグレープフルーツを拾ってくれたお礼を少年に言いかけた瞬間、それをかき消すようにグレープフルーツをポンポンとお手玉のように扱いながら、ニヤニヤ笑みを浮かべてナッツに向かってそう言う少年。

「えっ?」

はなから返してくるのだと思っていたナッツは、少年の意地悪な言葉に困惑する。

「欲しけりゃついてきな!」

少年はポカンとしているナッツの返答も待たぬまま、そう言ってナッツのグレープフルーツをナッツに見える様にしてチラつかせながらさらに森の奥に向かって走って行く。

「あっ!おい!」

「なんだ?怖くて追いかけてこられないのかぁ?男のクセにだらしねぇ!」

ナッツが自分を追いかけてきていないと気付くと、少年はパッと足を止めてナッツの方に振り返り、ブンブンと片手に持ったナッツのグレープフルーツを振り回しながらナッツに向かって挑発を始める。

「な、なんだと!別にそんなこと…」

少年の挑発に乗る様な形で目の前の茂みの中に足を進めようとするナッツだが、その瞬間に再びおじいさんの忠告が脳裏を横切る。それで一瞬ナッツは森の中に踏み込むのをためらうが、グレープフルーツを盗まれた挙句に自信をバカにされたとういことの方が恐怖心より僅かに勝り、ナッツは意を決して少年を追いかけることにした。

「完全に日が暮れるまでにアイツを捕まえればいいんだ!果物を取り返して、そんで一発叩いてやる!おい、待てよ!」

「おっ、ヤル気になったか?来いよ!」

茂みを掻い潜って買い物カゴ片手に向かってくるナッツの様子に、少年はニッと笑みを浮かべながらそう言うと、再び森の奥に向かって走り出す。



その後も、僕はなんとかアイツを見失わない様に追いかけたけど、荷物がいっぱいのカゴが邪魔でアイツに追いつくスピードが出せなかった。カゴさえなければあっという間に追いついて懲らしめてやるのに…それに、空を見れば本当にもうすぐ日も落ちちゃう。僕は果物を取り返すのとアイツを叩くのを諦め、おじいさんの忠告を守るために足を止めてきた道を引き返すことに。

「はぁ、はぁ…アイツぅ今度会ったらタダじゃ…あれ?無い…えっ?」

少年の追跡を半ば諦めナッツが来た道を戻ろうと振り向いた瞬間、目の前にあるハズの帰り道が忽然と姿を消し、辺りはいつの間にか方角すら分からない同じような木々が鬱蒼と生い茂る森に変わり果てていた。

「そんな…えっ、でも…いくら夢中だったからって…こんな所は走ってない…」

確かに帰り道といっても獣道の様なものだったが、ナッツの眼前にはそれすら存在していない。まるで、そんなものは始めから無かったかのような雰囲気だ。

「どうしよう。こんなんじゃ森を抜けるどころか家にも帰れないじゃないかぁ…」

突然の森の異形に行き場を失ったナッツは、涙目になりながら化細い声でそう呟きカゴをギュッと抱きしめる様にして抱きかかえその場にしゃがみ込む。やがて、夕焼け色の空もジワジワとその光を失っていき、日が完全に沈むと同時に森は一寸先も垣間見ることのできない漆黒の闇に包まれた。

「うぅ…おじいさん…助けてぇ…うぅ」

両親を早くに失ったナッツにとって、自分の育ての親であるおじいさんは親同然であり、暗闇の森の中でビクビクと身体を震わせながらおじいさんに助けを求めるナッツ。だが、周囲の暗闇からはガサガサと草木が不気味に鳴り響くだけで、ナッツの声に反応するものは何一つ存在しない。

「僕、ここで死ぬのかなぁ…あぁ…光が…んっ?…っ!光!?」

絶望的な状況の中、腕のスキ間から覗く暗闇の森の中に見えた一筋の輝き、その光に一瞬間をおいて反応したナッツはハッと我に帰ってすぐさまその場に立ち上がり、眼を凝らして改めてその光の在りかを確認する。

「あぁ!灯りだ!アレは家の灯りだ!」

ずっと遠くに見えるオレンジ色の光。それは照明の灯りだった。助かったと思った僕はその灯りを目指して暗い森の中を一生懸命がんばってズンズンと進む。しばらくすると、あんなにワサワサ生えていた草木も無くなり、ようやく道らしい道も見つかって一安心。だけど、その家の灯りが無いと少し先も見えない真っ暗だ。僕はとりあえず目の前に見える家に向かうことにした。


大きな木々の生い茂る森にひっそりと佇むその家は、家というより屋敷の様な広さを誇る豪邸。いくつもの美しい装飾の施された窓からはチカチカとオレンジ色の光が漏れ、どこからともなく漏れる匂いはナッツの恐怖で消え失せていた食欲を一気に呼び覚ますほどの匂いだ。

「いい匂い…って、とりあえず今はこの家でランタンか何か借りないと…」

夜道を辿って我が家に帰るためには灯りが必要不可欠。最悪、門前払いでランタンすら借りれないかもしれないが、とりあえずナッツは家に帰るためにもその屋敷に寄る必要があった。

トントン トントン

ナッツは屋敷の扉の前に立ち、聞こえるか分からないくらいの力で扉を2回叩く。

「はーい、今行きますから」

すると、思っていたよりも早く反応があり、扉の奥から男の声とその足音と思われる音がどんどんとナッツに向かって近づいてくる。やがて、その音は扉の前で止まると同時にギィと音を立てながらゆっくりと屋敷の扉が開いた。

「どちら様ですか?」

屋敷の中から出てきたのは、のほほんとした顔つきのやさしそうな好青年。といっても、その青年もある程度体格はあるものの、見る人が見ればまだまだ幼い印象の残った顔つきの少年だ。

「あ、その…道に迷ってしまって。ですから…灯りを貸していただけないかと…」

青年が出てきて早々、ナッツは少し緊張しているせいもあって震えた声で単刀直入に用件から青年に告げる。一方、突然の見ず知らずの者の訪問に加え、いきなり灯りを貸せと言われて戸惑うかと思われた青年は…

「ランタンを貸すのは構わないよ。でも、君一人で夜の道を行くのは賛成できないなぁ。今日はうちに泊まっていきなさい」

「えっ…あっ、その…あ、ありがとうございます…」

と、予想に反して万弁の笑みを浮かべてナッツを屋敷に招き入れる。そのなんともいえない警戒心0の反応に少し抵抗感のあったナッツだったが、切羽詰まった現状でこれでもかという様な手厚い歓迎を無下に断ることも出来ず、青年に誘われるがまま屋敷の中に足を踏み入れる。

「うわぁ、凄い!」

屋敷の中に入って僕はまた驚いた。だって、そこには今までみたこともない様なピカピカ光る置物とか、町でも見た事がないような凄い形の高そうな家だったからだ。僕の家とは全然違う。

見る物全てが物珍しいナッツは、屋敷の中を落ち着きなくキョロキョロと見渡す。

「そんなに珍しいかな?」

「凄いですよ!この家はお兄さんのなんですか?」

青年の方にむかってそう尋ねるナッツ。

「いや、ここはシルビエル様のお屋敷ですよ。私達はシルビエル様にお世話になって…」

「私達?」

「ヨーセン兄ちゃん!メシまだぁ?」

ナッツと青年が玄関先で喋っていると、そこに青年を「ヨーセン」と呼ぶ一人の少年が走りながらやってきた。

「あぁ、ファム。もう少し待って…ってか、たまにはお前も手伝えよ」

ファムと呼ばれる少年は、ナッツよりも少し背が高く年上に見えるが、振る舞いは落ち着きのない印象が強く、ギャーギャーとうるさそうな感じのやんちゃ少年だ。

「んっ?お前…」

「あっ」

なんとなく聞き覚えのある声に反応したナッツは、ジッとやってきたファムを見つめる。
すると、ファムはナッツの顔を見た瞬間に表情を曇らせ、一目散にその場から立ち去ろうと身体を180度回転させる。

「やっぱり!…こらぁ!待てよ!お前のせいで家に帰れなくなったんだぞ!」

ファムの反応に、自信の果物を盗んだだけでなく森の中で迷子にさせた先程の泥棒だと確信したナッツは、バッとファム目掛けて飛びかかり、ファムに襲いかかる。最初は襲いかかったナッツにポカポカと頭を叩かれていたファムだが、すぐに逆切れして逆にナッツの頭を叩き始める始末。

「なんでお前がここに居るんだよ!さっさと出て行け!」

そう言ってナッツに叩きかかるファム。

「そうなったのはお前のせいだろう!バカ!」

ナッツもそう言い返してファムに叩き返す。

「こら、二人とも喧嘩はやめなさい!」

必死に仲裁に出るヨーセンだが、二人とも一歩も引かず、どんどん自体は悪化していく一方だ。やがて、屋敷中に響き渡る二人のその喧嘩の音に呼ばれる様にして玄関先にある人物が顔を出す。

「何事ですか?」

「っ!」

「?」

そう声が辺りに響いた直後、ファムはまるで石化したかのようにうんともすんとも言わなくなり、ナッツへの攻撃もパッタリ止んだ。

「シ、シルビエル様!申し訳ありません。スグに静かにさせますので…」

慌ててシルビエルと言われる人物に謝罪し始めるヨーセン。どうやら、先程ヨーセンが言っていた屋敷の持ち主が出てきたようだ。しかし、シルビエルという人物がいざ登場すると、屋敷の主という肩書を持っている割には若く、パッと見でもヨーセンより4~5歳上というような印象しかない若い青年だった。

「いや、賑やかなのは構わないが…ところでヨーセン、そちらの少年は?見かけない顔だが」

玄関ホールの奥にある階段からゆっくりと降りてくるシルビエルは、何事かと呆然と立ち尽くすナッツに向かってニコっと万弁の笑みで微笑みかける。

「あっ、この子は道に迷ってうちに…それで、もう遅いので今晩は泊っていくように言ったのですが…」

ヨーセンは顔を俯かせ、申し訳なさそうな態度と少し怯えた様子でシルビエルそう伝える。

「そうですか、良い行いですヨーセン。それでこそ我が愛しき息子。…さて、君の名前は?」

「ぼ、僕はナッツです。助けていただいて感謝しています」

目の前までやってきたシルビエルにお礼を言うナッツ。この時、ナッツはシルビエルのなんともいえない不思議な感覚に完全に圧倒されていた。

「ナッツくんか…ふむふむ。ところで、ファムとは知り合いなのかね?」

チラッとナッツの横で申し訳なさそうに立ち尽くすファムを見ながらナッツにそう尋ねるシルビエル。その問いにナッツは真実を伝えるべきか悩んだものの、シルビエルの瞳を見た瞬間に真実を一気に語る。

「そ、それは……この子が僕の果物を盗んだんです!」

「ぬ、盗んでない!あれは拾ったんだよ!適当なこと言うな!」

ナッツの言葉にすぐさま反論するファム。しかし、シルビエルはファムの言い分を一括して退けた。

「ファム!」

「はいっ!」

シルビエルの喝にピンっと身体を気をつけるファム。

「父さんは悲しいぞ…今日はお前の部屋にナッツくんを泊めてあげなさい。それと、ちゃんと仲直りするんだぞ」

「はぇ?」

一体どんなお仕置きをファムに与えるのかと内心ドキドキしていたナッツだが、案外普通というよりもむしろ親バカ的な発言に少し驚くナッツ。

「えぇー!嫌だよー!」

シルビエルの言葉に不満をもらすファム。だが、シルビエルはそれを無視してさっさと話を進める。

「ナッツくん、それでいいかな?」

「僕は構いませんが…」

一つ返事で了承するナッツに対し、ファムはそれ以上言葉には出さなかったが納得いかないといった表情を浮かべてどこかに行ってしまった。

「ふん…」

「ナッツくん。弟のファムが迷惑をかけたようだね。うちの果物でよかったら、明日好きなのを持って帰ってくれていいよ」

ファムが立ち去った後、先程の会話で事情を知ったヨーセンは弟の非礼を詫びると共に気を利かせてナッツにそう進める。

「いいえ、そんな…泊めていただくだけ…」

「いやいや、腐るほどあるから気にしないで、ね?」

「はぁ…それなら」

「さて、立ち話もこの辺でいいでしょう。後の二人、それとファムも待っていることだし夕飯にしましょう。ナッツくんもたくさん食べていってくれたまえ」

「あ、ありがとうございます!」

一通り会話が落ち着いたと判断したシルビエルは、ひとまず夕飯にしようと二人に告げ、3人は先程ファムが去っていった屋敷の食堂がある場所を目指して足を進める。

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