帰らずの家 その2
玄関ホール右手にある大きな2枚扉をヨーセンが開け、3人は屋敷の食堂に入っていった。その中は屋敷の規模にくらべればまぁまぁ広い程度の食堂になっていて、扉の前方には10人掛け程度が座れる大きな机が置いてあり、奥のスペースは料理屋の様な本格的な厨房になっている。
「シルビエル様!今夜はプロトロ牛のビーフシチューですよ」
シルビエルが食堂に入ると、厨房からシルビエルに向かって誰かが夕食のメニューを伝える。
「おぉ、スタン。それは楽しみだな。ストルもいつもすまないね」
「いえ、シルビエル様のためなら全然!」
どうやら他の二人って言うのは厨房で料理を作っている人のことみたいだけど、二人?僕には一人しか居る様に思えないけど…
ナッツは厨房から聞こえる声が一つなのに、シルビエルが二人の名前を言ったことに疑問を感じた。しかし、その疑問はそばに居たヨーセンによってスグに解かれることに。
「不思議ですか?」
厨房の方を不思議そうな眼差しで眺めるナッツに、さり気なくヨーセンが問いかける。
「あ、いやぁ…」
「彼らは双子なんですよ。単純な答えでしょ?声も顔も背丈も同じ、後でちゃんと紹介しますね…あぁ、席は適当に座ってくださいね。…そうそう、荷物は私がここで預かっておきますから」
「あっと…すいません。お願いします」
ヨーセンはナッツにそう言うと、ナッツから荷物の入ったカゴを受け取り双子の居る厨房に向かって言った。
「ナッツくん。君はファムの隣でどうかね?」
ナッツがヨーセンに言われた通り、とりあえず適当に手前の席に適当に座ろうとした瞬間、シルビエルが唐突にファムの隣にと進める。
「えっ、でも…」
「シルビエル様~俺嫌だよ」
「…なんて言ってますし」
文句を言うファムを横目にシルビエルの提案を遠回しに断るナッツ。
「素直になりなさい、ファム。…この子はナッツくんと友達になりたいんですよ。多分、ナッツくんの物を返さなかったのもナッツくんと遊びたかったからでしょう」
「な、何を言ってるんだよ、シルビエル様ぁ!俺は全然そんなこと…全然」
ある程度が図星だったのだろうか、ファムは一瞬で顔を真っ赤に染め上げ、慌てたそぶりでシルビエルの意見を否定する。
「それじゃ、僕はファムくんの隣で…」
正直、シルビエルの言葉にどう対応していいのか困ったナッツは、嫌々ながらも嫌だと言えずにとりあえず提案通りにファムの隣に座ることに。
「わっ!ちょ!…さっきは…ゴメン」
ナッツが椅子に座った直後、ボソっと早口で森でのことを謝罪するファム。一方、ナッツはなんとなく聞き取れはしたが、確信が持てずにファムに聞き返す。
「何?聞こえないよ」
「二度も言わせんな!」
ファムは相変わらず顔を真っ赤に染めながら、聞き返すナッツに向かってそう言う。それは本人なりには謝罪のつもりだったのだろうが、ナッツには乱暴な奴だとさらに印象を悪くさせてしまっただけだった。
「はぁ」
どう考えてもこんな奴と友達になれる訳が無い。ってか、コイツ以外の人達はみんな良い人っぽいのに、なんでコイツはこんなに嫌な奴なんだろう。
当然ながら、いまいちシルビエルの言葉やファムの心情に気付かないナッツは、余計にファムのことを毛嫌いするようになり、食事中はファムと一切言葉を交わすことはなかった。
その後、何事も無く食事は終わり、食後の他愛も無い世間話や、ナッツの話などで盛り上がった賑やかな夕食の時間はあっという間に過ぎ去り、時間の経過を指し示すかの様に食堂に配置してあった蝋燭の長さも、のこすとこあと僅かにまで消耗していた。そして、シルビエルが話のキリの良い所で夕食を終わらせ、各々解散することに。
「ご馳走様でした。スタンさんとストルさんてとっても料理うまいんですね!すごく美味しかったです」
笑顔でスタンとストルにお礼を言うナッツ。
「ありがとうナッツくん」
「ありがとうナッツくん」
双子のスタンとストルは同じ口調と同じタイミングでナッツにお礼を返す。それは予想はしていたが、若干それがパフォーマンスにも思えたナッツは苦笑いを浮かべた。
「あははぁ…」
「さて、私はそろそろ部屋に戻るとするか……ヨーセン、部屋で待っているぞ」
一番先に席を立ったのはシルビエルだった。そして、シルビエルはヨーセンに向かって後で部屋に来るようにという様なニュアンスを含んだことを言い付ける。
「は、はい!食器を洗い終わったらすぐに行きます」
「?」
いつものことなのか、特にヨーセンは用件を聞くでもなくシルビエルの言いつけに従う。
このやり取りに何となく違和感を感じたナッツだったが、それは食堂を出る直前にシルビエルが放った言葉でうやむやに。
「そうそう、ファムはちゃんとナッツくんを部屋に連れて行くんだぞ」
「…はーい」
ふと、思い出したかのようにシルビエルは振り返ると、ファムに向かってナッツの世話をまかせ、さらにチラッとナッツの方を向いてニコッとほほ笑み再び背を向けて食堂を後にした。
「…おい、部屋に行くぞ。着いてこい!」
「っと、なにすんだよ!」
不意にファムがナッツの片腕を掴み、半ば強引に自室に連れて行こうとする。ナッツにしてみれば、さっきまで散々嫌がっていたのと正反対の行動をされて、終始ファムに振り回されっぱなしといったところだろう。
「いいから!さっさと俺の部屋に行くぞ!言うこと聞かないとベッドに入れてやらねぇぞ」
「ちょ、一緒のベッドで寝るの?」
そういうことは気にしないのかというような顔でファムを見るナッツだが、ファムはケロッとした顔で切り返す。
「当たり前だろう?兄ちゃん達お休み!」
「あっと、食器を…」
「あぁ、気にしないでいいよ。お休みナッツくん」
はなから食器を片づける気のないファムとは裏腹に、ファムに引っ張られながらも夕食の食器に目を向けるナッツ。だが、食器は自分が片付けるとヨーセンに言われ、結局ナッツはファムの勢いに負けてヨーセンの言葉に甘えることに。
「すいません…み、みなさんお休みなさい!」
慌ただしくファム連れられて食堂から出たナッツ。二人はそのまま玄関ホール奥の階段を一気に駆け上がり、二階の廊下を少し進んだ後に「ファムの部屋」と書かれた部屋の前までやってきた。
ガチャ
「あっ、ロウソク消えてるし…真っ暗だから気をつけろ」
「…うん」
ファムが自室の扉を開けると部屋のロウソクは既に燃え尽きていたのか、扉を開けると中は真っ暗闇。唯一の光源は廊下から漏れる微かな灯り程度だ。それでなんとかうっすらと室内の様子を窺うことができる。
「うーん、とりあえず扉は開けといて服脱ごうぜ」
「…まぁ、真っ暗じゃ困るしね」
そう言い合うと、二人は廊下の灯りを頼りにさっそく服を脱いで下着姿になった。そして、慣れないナッツをファムは先に窓際のベッドに入る様に指示し、ナッツがベッドに入ったのを確認した後にファムも暗闇の中をフラフラとベッド目掛けて歩き、ナッツの居るベッドに潜り込むようにして入るファム。
その後、ベッドには入ったけどすぐに寝れなかった僕達は、同じベッドの中で色々な話をした。最初は嫌な奴だと思ってたファムだけど、案外ちゃんと話をしてみると結構おもしろい奴で、年も近いからいつの間にか名前で呼び合う様にもなっていた。
「そうそう、気になってたんだけど…この家の人達ってどういう関係なの?みんな兄弟には見えないし」
二人の会話が弾む中、ナッツはこの家の不思議な家族構成についてファムに尋ねる。すると、いままで聞きもしないことまでベラベラと喋っていたファムの口調が変わり、ナッツの質問に答えはしたものの、それは漠然とした答えだった。
「あぁ、本当の兄弟じゃないよ。まぁ、スタンにぃとストルにぃは本当の双子だけど。みんなシルビエル様に助けてもらったって言ってた」
「そうなんだ…で、ファムはなんでここに?」
「別に…」
「…」
こんなに大きな屋敷を持ってて、本当の親子でもないファム達を育ててるシルビエルさんって大金持ちなんだろうな…でも、そんなにお金持ちなら町でも有名だと思うんだけど…今まで一度も聞いたことが無い。
ナッツはシルビエルことについてファムから話を聞こうと思っていたが、急に黙り込んだファムの様子を察して、ナッツはそれ以上そのことについてファムに尋ねることはしなかった。結局、会話はそこで途切れたまま終わり、二人はそのまま眠りに就くことに…
ガタッ
静かな室内に突如響き渡る何かの音。その音は、慣れない寝具で中々寝付けなかったナッツの脳を一瞬で覚醒させる。
「んっ……あれ?ファム?トイレかな…うぅ、僕も行っておこうかな」
変な物音で目が覚め、なんとなく隣で寝ているハズのファムの方を見ると、なぜかファムが居ない。僕はファムがトイレにでも行ったんだと思って、自分もトイレに行こうとベッドから這い出た。
ナッツはベッドから出ると、薄っすらと見える部屋の輪郭を頼りに手探りでなんとかドアまでたどり着き、そのままドアをゆっくりと開けて屋敷の廊下に出る。だが、廊下には出れたものの、肝心のトイレの場所を知らないナッツ。
「…って、そういえばトイレって…聞いとけばよかったな」
「んぁあっ!」
「ん?」
トイレの場所が分からずナッツが廊下で途方にくれていると、廊下の奥から何者かの甲高い声が廊下に響く。さらに、声のした方を見ると、廊下の奥の部屋の一室の扉が若干開いており、そこから室内の光が漏れている。ナッツは、始めは気にせずスルーしようと考えたがその部屋がどうしても気になってしまい、トイレを探すという名目でゆっくりと足音を立てない様に奥の部屋に足を進めた。
「スタンにぃ…ストルにぃ…はぁんぁ!」
「随分上達したじゃないかファム。なぁストル」
「あぁ、ちょっと前までは少し刺激しただけでヒーヒー泣いていたのになぁ」
「んぅ…あぁあぁ…」
部屋の中から聞こえてくるのは、ファムの声と双子のスタンとストルの声だった。半開きのドアの前までやってきたナッツは、こっそりとドアの隙間から中の様子を窺おうと試みる。
(ここはスタンさんとストルさんの部屋なのか?でも、なんでファムが…それに3人共こんな夜中に何やってるんだろう…えっ!)
中の様子がハッキリと見える訳ではないが、ナッツはドアの隙間から室内を除いて絶句する。それは、3人がベッドの上で抱き合っている様に見えたからだ。しかも、一糸纏わぬ全裸姿で。
ミシッ…
中の様子を食い入る様にして覗き込もうとナッツがドアに手をかけた瞬間、ナッツの重圧でドアの木材がミシッと音も立てて軋む。それに慌てたナッツは急いでドアから離れ距離をとる。
「!誰か居るのか?ヨーセンか?」
案の定、その音に中に居るスタンが反応して呼びかけを行う。だが、無論ドアの向こうから返事は無く、スタンは首を傾げる。
「どうしたスタン?」
「いや、今何か物音が…」
「そんなのいいからぁ続きぃ!ねぇ!にぃにぃ」
物音の正体を確かめに行こうとするスタンだが、それは興奮状態のファムの甲高い声によって阻まれた。そして、3人は再び中断された「行為」の続きをし始める。
「ファムは始まると夢中になっちまうからなぁ。まぁ、そこがカワイイけど」
そう言いながらスタンはファムの頭を撫でると、勃起した自らのモノをファムの小さな口にグイグイと押し込む。一方、ストルの方はファムの両足を腰にまわして抱きかかえ、スタン同様に勃起したモノをネチャネチャと音を立てながらゆっくりとファムの拡張された肛門に挿入して行く。
「ふぅん!んぅうぅうんぅ…はぁぁああぁ!にぃにぃ!…ふぅんんぅ!」
室内に響き渡る肌と肌が擦れ合う音、そして時折3人の口から漏れるいやらしい喘ぎ声。
双子に挟まれる様にして身を捧げるファムの身体からは、常に粘着質な音が鳴り響き続ける。だが、ファム自信がそれを嫌がることも無く一心不乱に双子の愛を全身で感じながら受け入れ、自らも進んで双子に奉仕する。
「ストル…どうだぁ?…うぅ」
「イイ感じ…ファムも喜んでるみたいだし…くぅうぅ」
激しくなっていく行為に比例して、ギシギシと音を立てながら撓るベッド。連なった3人の妖しい汁塗れのシルエットが蝋燭の炎によって照らされ、ゆらゆらと不定期に形を変える黒色に混ざり合った歪な影が室内に投影される。
「……」
どうしよう…こんな……駄目だ…部屋に戻ろう。どうせここに居るのも明日の朝までだし、面倒なことになるのは嫌だし、みんないい人だし…
衝撃的な行為の一部始終を偶然にも目の当たりにしてしまったナッツは、ドアの横に力無くペタリと座りこんでショックを受けると共に、どこか恐怖心に近いものも感じていた。そして、自分自身に何も見なかったという様な暗示をかけながらファムの部屋にそっと戻り、ベッドの中に潜り込んで目をつぶる。だが、その後も内心ではファム達のことが気になって中々眠りに就くことが出来ず、頭の中で色々な妄想を繰り返すナッツ。
「んっ…あぁ…」
「ナッツ。起きろよ!朝メシできたぞー!」
「んぅ…」
ベッドにうずくまるナッツの耳元で響くファムの耳障りな声。結局、眠りに就くことはできたナッツだったが、案の定たいした睡眠をとることが出来ず、ファムの声にうっとうしそうに反応してみせる。
「んっ…」
「ファム。無理に起こしたら可哀想だろう」
ファムと共にナッツを起こしに来たヨーセンは、乱暴にナッツを起こそうとするファムを止める。だが、ファムはその制止を聞き入れるどころか、今度はベッドの上のナッツの身体に大股で跨り、ぺチぺチとナッツの頬を軽く平手打ちし始める。
「だって、起こさないと朝メシ冷めちゃうじゃん、ヨーセン兄ちゃん」
「そうだけどそれじゃ…」
「あれ…僕」
度重なるファムの安眠妨害で、ついにナッツの意識が目を覚ます。しかし、まだナッツの瞼はトロ~ンと瞳を覆い隠しており、まだ体は半分寝ている様な状態だった。
「おっ、起きたかナッツ!」
「騒がしくてごめんね…おはようナッツくん。ゆっくりでいいから着替えたら食堂まで来て。君の分の朝ご飯用意してあるから」
「あっ、すいません…でも、僕は帰らないと…」
昨夜のこともあるが、これ以上は迷惑をかけたくないという思いがナッツの中にあり、ナッツは目覚めた直後だというのに早々に帰り支度を始めようとした。だが、そんなナッツをファムは引き止める様にして怒鳴る。
「はぁ?お前が起きるまで待ってたんだぞー!」
「…そうなの?」
「そうなの!」
念を押すようにして、顔面をグイッとナッツの顔に押し付ける様にして近付けそう言うファム。さらに、それに追い打ちをかけるかのように笑顔でヨーセンもせっかくだからとファムを引き止めた。
「まぁ、とにかく朝ご飯は食べていってよ。ナッツくんの分も用意しちゃった訳だしさ」
二人の熱い説得?に、寝ぼけ眼で意識のハッキリとしていなかったナッツは、結局断り切れずに朝ご飯を食べていくとヨーセン達に返答する。
「…それじゃ…その、すぐ着替えていきます」
「着替え手伝ってやろうか?」
ナッツの着替えを片手にそう言うファム。しかし、ナッツは流石にそればっかりは結構だという表情を浮かべ、ファムの手から自信の着替えを奪い取った。
「いいよ、一人で出来るから…ってか、ファムは先に食堂に行っててよ」
そう言ってファム達に、先に食堂に行くように伝えるナッツ。
「ほいほい。行こうぜヨーセン兄ちゃん」
「それじゃ、待ってますから」
ナッツの言葉に二人はそろってファムの部屋から出て行く。
「…アレは夢だったのかな」
部屋で一人になった後、ナッツは改めて昨晩のことを思い出す。だが、どう考えても先程のファムの態度やら振る舞いを見た感じでは、昨晩の様な行為を行っているとは到底信じられず、寧ろあれは自分の見間違いか夢か何かだと思う考えの方が、ナッツの頭の中では現実味をおび始める。
まぁ、とにかく朝ご飯をご馳走になったら家に帰れるんだから、これ以上変なことは考えないようにしようと思いながら僕は着替えを始めた。